第23話「永遠の少女」

 アルクス・プリーマの甲板に並べられたシムーン・古代シムーン・シミレをワポーリフが見ている。
 礼拝堂では宮国・嶺国の宗教関係者らが集まり、式典が行われている。
 式典が終わり、廊下を歩くテンペスト。アルティ「本当に終わったんだよね。戦争。」ロードレアモン「もう、祈りを捧げる事だけに生きられるのね。」パライエッタ「ああ。」フロエ「なのに、なんで、すっきりしないんだろう。」
 アーエルは今回の式典にも参加できなかったようだ。アーエル「アタシは違う世界が見たい。」じいちゃんのひざの上で話を聞いた幼少の頃を思い出すアーエル。「じいちゃんがずっとあこがれ続けてた違う世界。アタシはそこに行くためにシヴュラになったんだ。なのに・・・。」回想の中のネヴィリル「アムリアも・・・それじゃ、アムリアも生きているかも知れない、と言う事ですか?」持っていた花を捨てるアーエル。ハルコンフ「いけないな。」アーエル「副院主様。」ハルコンフ「その呼び名はもうやめてくれ。私はもう、役目を失った。手折られその命を終えたとしても、誰かの慰めぐらいにはなれる。」と言ってアーエルの捨てた花を拾おうとするが、手が届かない。アーエルがそれに気付き、花を拾い上げ、手渡しながら言う。「式典には出席しなかったんですか?」ハルコンフ「ああ。戦争は終わった。それで全てだ。」手渡された花を胸にさすハルコンフ。「誰かの慰めぐらいには・・・か。私にはそれすら出来ない。私ではネヴィリルを守りきれぬ。」アーエル「え?」
 会議室で会議が行われている。司兵院「その二つが礁国と嶺国が提示してきた和平条件だ。」宮守「私は聞いていない!」と立ち上がる。司兵院「形の上だけでも、礁国・嶺国と同じ立場でいられる。それは誰の働きか。よく考えていただきたい。戦争は愚かな事、そうでは無いのですかな?宮守殿。」そこに礁国と嶺国の総督らが入ってくる。宮守は思いつめた様な表情をしている。
 廊下を歩きながらグラギエフがアヌビトゥフに言う。「本当にこれで良かったのでしょうか?私は、彼女達の捧げる祈りが平和の空へと続くよう、それだけを望んでいました。でも、この決定は・・・アヌビトゥフ?」アヌビトゥフは独り言のように「宮守様のあの態度・・・。」グラギエフ「え?」アヌビトゥフ「いや。」
 レストランで食事をするロードレアモン達。周囲には礁国兵士がたくさんいて、一部は床に座っている。モリナス「和平式典も終わったのに、どうしてまだ居るっての?」ヴューラ「幾つかの部隊はアルクス・プリーマに残るらしいって。」モリナス「和平って言葉の意味、分かんなくなるわ。」パライエッタ「仕方が無いだろう。古代シムーンを手に入れるまでは、一方的と言ってもいい程、仲間を奪われて来たんだ。」ロードレアモン「あんな顔してたんだ。リ・マージョンで消してしまった一人ひとりの顔、知りもしなかった。きっと、きっと・・・あの人達にも・・・。」ヴューラ「さ、冷めちゃうわ。食べましょう。ほら、ロードレアモン、この魚も食べなさい。あなた近頃痩せたでしょう。栄養つけなくっちゃ。」ロードレアモン「うん、ありがとう。」モリナス「ヴューラってお母さんみたいね。」
 「ちょっと、足邪魔なんだけど。その臭い足どかしてよ。って言ってもアンタ達には分かんないだろうけど。」ネヴィリルと一緒に来たフロエが、床に座っている礁国兵士に文句を言う。礁国兵士はフロエを指差して何か言う。フロエ「ふーん、けなされてるってのだけは分かるんだ。」礁国兵士に囲まれ、険悪な雰囲気になるが、そこに嶺国巫女が一言声をかけると、礁国兵士はその場を立ち去る。近づいてきた三人の嶺国巫女の中に、空中補給基地でネヴィリル・マミーナを見逃そうとしてくれた巫女が含まれていた。ネヴィリル「あなた達は。」嶺国巫女はひざまづいて言う。「お許しください。シヴュラ・アウレア・ネヴィリル。」「私達は恐ろしい大罪を・・・。」フロエ「ネヴィリル?」ネヴィリル「祝福を。」それまでうつむいていた嶺国巫女が顔を上げて言う。「祝福・・・。」ネヴィリル「祝福を。」パライエッタ達、礁国兵士達が見守る中、ネヴィリルは嶺国巫女に手を差し出し、祝福の祈りをする。
 大聖廟近くの泉に、ユンがシミレから降り立つ。
 パライエッタがシャワーを浴びている隣に、アルティが入ってくる。アルティ「石鹸貸して。」パライエッタ「ああ。」アルティがパライエッタをまじまじと見て言う。「パライエッタって、大きいよね。」パライエッタ「邪魔なだけだ。」アルティ「パライエッタは男になりたいんだよね。」パライエッタ「男にならなければ、強くならなければ、大切な者を守れない。」アルティ「そういえばネヴィリルに言われた事があったよ。」回想の中のネヴィリル「抱きしめられて強くなる、それは違うわ、アルティ。お互いに強くなれた時にこそ、本当の意味で抱きしめあえる。」パライエッタ「そうか・・・、そうか。」アルティ「私も男になりたいと思ってたけど、これなら直ぐにでもやっていけるかも。」パライエッタとカイムが笑っているところに、カイムが入ってくる。アルティ「姉さん。」パライエッタ「自分を受け入れた方が楽になれる。」
 泉の奥に進むユン。泉の向こうにはオナシアが立っている。ユン「オナシア・・・。オナシア、どうやってここへ?あなたは遺跡に残ったはず。」オナシア「ならば、あなたはなぜここへ?」ユン「それは・・・」オナシア「この場所は非常に不安定なのです。あの遺跡はコール・デクストラの練習場。未完成な翠玉のリ・マージョンが何度も弾けては散って行った場所。」ユン「ヘリカル・モートリス。時間と空間とを操ると言われている。」オナシア「そう。その為、空間が歪み、泉は同時に2箇所に存在することとなった。」ユン「信じられない事、ばかりだ。」オナシア「人が信じられることは、そう多くはありません。そう、皆、自分自身の事ですら信じられないのですから。」ユン「貴方の言うとおりだ。オレは、散って行った仲間達から近い場所に居たいと願いながら、その実、遠く遠くへ遠ざかろうとしていた。どうして、貴方には分かった?」オナシア「同じだからです。私は何も選ばずに現実から最も遠い所へ行こうとしていた。私は貴方を求めていたのかもしれません。誰かに聞いて貰いたかったのかも知れません。私の・・・罪を。」
 会議室にテンペストが集められている。司兵院「礁国・嶺国との和平条約の条件として、コール・テンペストは解散する事となった。」驚くテンペスト


 舞踏場に集まるテンペスト。カイム「こんな時にユンはどこに。」ロードレアモン「嫌よ、嫌!コール・テンペストが無くなるなんて。ずっとみんなでやってきたのに。」モリナス「私達の役目は、礁国の巫女達が引き継ぐんでしょう。」フロエ「分かんない。和平ってそういうもの?」パライエッタ「完全な平等なんてありえない。」ロードレアモン「そんな、そんな分からないわ。」ネヴィリル「分かっていることは一つ。私達がもう求められてはいない、と言う事。」ロードレアモン「シヴュラとして祈ることに、やっと意味を見出せたのに。」ネヴィリルがロードレアモンの肩に手を乗せてから言う。「コール・テンペストが無くなっても、私達がシムーン・シヴュラであることに、変わりはないわ。私達の祈りは誰にも汚されることは無い。誰にも。」
 夜、アーエルがベットで横になってるところに、ネヴィリルがやってくる。ネヴィリル「コール・テンペストが廃止されれば・・・。」アーエル「何?いきなり。」ネヴィリル「私達はもうシムーンに乗れなくなる。違う世界への扉も、閉ざされる。貴方も違う世界へ、あこがれていたんでしょう。それなら・・・。」アーエル「ネヴィリルってこんなによく喋る奴だったっけ?」ネヴィリル「え?」アーエル「別に。」ネヴィリル「アーエル。」部屋から出て行ったアーエルを追いかけて行こうとするネヴィリルだったが、そこでパライエッタに会う。
 ネヴィリル「こうして話すのは久しぶりね。」パライエッタ「ああ。」ベンチに腰掛ける二人。パライエッタ「ネヴィリル。」ネヴィリル「え?」パライエッタ「私にも・・・、私にも祝福を与えてくれないだろうか?」見詰め合う二人。ネヴィリル「ええ。」パライエッタ「ネヴィリル。」
 アーエルが船首展望で星を見ていると、フロエがやってくる。フロエ「アーエル、何?ふてくされてんの?ネヴィリルと何かあった?」アーエル「何でネヴィリルが出てくんの?」フロエ「図星か。」アーエル「ネヴィリル、変わったんだ。」フロエ「どう変わった?」アーエル「よく喋る。」フロエ「ふーん、お喋りはね、唇でふさいじゃえばいいの。」アーエル「キスばっかだね。フロエは。」フロエ「へ?」アーエル「前も言ってた。好きだとキスしたくなるってさ。」フロエ「で、したくなった?」アーエル「今のネヴィリルとはしたくない。」フロエ「嫌いになったの?・・・ふん。なーんだ。やきもち。」アーエル「そんなの、アタシは。アレ、何これ。熱い。」フロエ「わー、本気だ。」アーエル「ちょっと待って。本気って、何?」フロエ「ネヴィリルだけじゃなくってさ。アーエルも変わったんじゃない。」アーエル「え?」
 礼拝堂で、ネヴィリルがパライエッタに祝福の祈りをしていると、取り乱した宮守が入ってきて言う。「シヴュラ・ネヴィリル。シヴュラ・アーエルはどこです?どこに居るのです?」ネヴィリル「宮守様。」パライエッタ「どうしたのですか?」宮守「シヴュラ・パライエッタ、貴方でもいい。一緒に来てください。私と一緒にさあ、早く、早く。」
 シムーンの格納庫に連れてきた宮守は、周囲を気にしながら言う。「飛ぶのです。シヴュラ・パライエッタ、シヴュラ・ネヴィリル。」ネヴィリル「え?」宮守「もう時間が無いのです。急がないと・・・急がないと・・・扉が閉ざされる。もう二度と開くことは無い。」パライエッタ「扉が。」パライエッタとネヴィリルは顔を見合わせる。
 再び泉。オナシア「私は遠い過去、コール・デクストラに所属していました。翠玉のリ・マージョンを夢見て。永遠の少女を夢見て。」ユン「永遠の少女。」オナシア「シムーンは少女そのもの。少女は揺れる。シムーン球はその心を写す。少女は漂う。この現実から永遠に逃れ、永遠に美しいままの自分を空に描き出して。」オナシアが左腕を露にすると、それは紫色で、光を強く反射している。(?)
 再び格納庫。ネヴィリル「お待ちください。宮守様。」宮守は切羽詰った様に言う。「翠玉のリ・マージョンを。この国を変えるのです。このままではいけない。このままでは・・・。」なにやら、礁国兵士の声が聞こえる。宮守「早く、早く飛び立つのです。希望の大地へ。」ネヴィリル「え?」宮守は自ら礁国兵士の所に赴き、両腕を兵士に抱えられて連れ去られる。ネヴィリル「はぁ〜・・・、え。」パライエッタ「君は何か、私に隠してる事があるんじゃないか?教えて欲しい。」ネヴィリル「でも・・・。」パライエッタ「私は君を抱きしめたい。」ネヴィリル「へ?」パライエッタ「仲間として。」ネヴィリル「パライエッタ・・・。」
 またまた泉。オナシア「あなたにお見せしましょう。現実から逃げ続ける事が、性別を選ばずにいる事が、どんな結果を生むか・・・。」オナシアが右手で左腕を握ると、砂の様な、霧の様なものが発生する。それを目の当たりにしたユンはひどく驚き、その場にへたりこむ。



 礁国にも巫女っているの?もしかして、嶺国は礁国に吸収されちゃったのか?
 どうも最近、視聴者とスタッフのピントがあってないんじゃないか・・・と思ってみたり。わざと外されているとすれば、見ている方としてはストレスがたまる訳で。果たしてどうなるんだ?シムーン